今日も、おつかれさま ― 暮らしの中の小さな物語 ― Vol.15
どこかの暮らしに、そっと寄り添う物語...
はじめての敬老の日

九月のシルバーウィーク。
朝食を終えて新聞を広げる夫の横で、「敬老の日か」と妻がカレンダーを見つめる。
「まだ私たちには早いよね。」
そう言うと、夫も笑ってうなずいた。
孫が生まれたのは、ほんの数か月前。
写真や動画は毎日のように送られてくるけれど、「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ばれることには、まだ少し照れがあった。
昼過ぎ、宅配便が届く。
箱の中には焼き菓子と、小さな足形が印刷されたカード。
『いつもありがとう』
その下には、娘の字で「○○より」と、生まれたばかりの孫の名前が添えられていた。

「まだ本人は何も分かってないのにね。」
そう言いながらも、夫は何度もカードを見返している。
妻も思わず笑った。
「でも、この子から見たら、私たちはもう、おじいちゃんとおばあちゃんなんだね。」
年を取ったというより、新しい呼び名をもらったような気がした。
送られてきた動画を二人で眺める。
眠そうな顔、小さなあくび、ぎこちなく動く手。
たった数十秒なのに、何度見ても飽きない。
「来年は歩いてるかな。」
「その次は、一緒に公園かな。」
そんな話をしているうちに、来年の敬老の日が少し楽しみになっていた。
朝は「まだ早い」と笑っていた二人だった。
けれど一日が終わる頃には、その呼び名も悪くないと思えていた。






