今日も、おつかれさま ― 暮らしの中の小さな物語 ― Vol.8
どこかの暮らしに、そっと寄り添う物語...
留守番上手
土曜日の朝。
久しぶりに友人とランチへ出かける約束だった。
着替えを済ませ、バッグを持って玄関へ向かう。
ふと振り返ると、猫が廊下の真ん中に座っていた。

見送るでもなく、止めるでもなく。
ただ座っている。
「夕方には帰るからね」
声をかけると、猫は興味なさそうに顔を背けた。
その態度に少し笑う。
ランチは楽しかった。
おしゃべりをして、買い物もして、思ったより長居した。
帰宅したのは夕方だった。
玄関を開ける。
「ただいま」
返事はもちろんない。

なのに奥の部屋から、ものすごい勢いで猫が走ってきた。
足元をぐるぐる回る。
つい数秒前まで平気だったような顔をしていたくせに。
「寂しかったん?」
しゃがんで聞く。
猫は答えず、なぜか先に部屋へ戻っていった。
呼びに来ただけらしい。
少しして台所へ向かうと、空っぽの餌皿の前に猫が座っていた。
なるほど。
歓迎ではなく催促だった。
思わず吹き出す。
餌を入れると、猫は満足そうに食べ始めた。
今日一日、自分がいなくても困らなかったはずだ。
でも、帰ってきたことには気付いていた。
それだけで少しうれしい。
猫の気持ちはよく分からない。
けれど、たぶんお互い様なのだと思った。







