【今日も、おつかれさま】「雨の日の引き出し整理」

コラム/インタビュー
 2026/06/28
【今日も、おつかれさま】「雨の日の引き出し整理」

今日も、おつかれさま ― 暮らしの中の小さな物語 ― Vol.3

どこかの暮らしに、そっと寄り添う物語...

雨の日の引き出し整理

朝から雨が降っていた。

洗濯物は部屋干しにして、買い物は午後にしようと決めた。急ぐ予定もなくなり、いつもより少し静かな一日になりそうだった。

夫は定年後も週に数日働いている。その日も朝早く出かけ、家には自分ひとり。テレビをつけてもなんとなく集中できず、台所の引き出しを整理することにした。


使わなくなった輪ゴムや期限の切れた調味料のメモ、どこでもらったかわからないポイントカード。捨てるか迷うものばかりが出てくる。

その中に、数年前に娘と出かけたときのレシートが挟まっていた。

特別な日ではなかった。ただ買い物をして、お茶を飲んで帰っただけ。それでも日付を見た瞬間、その日の会話や娘の笑い声がふっと浮かんだ。

結婚して県外に住む娘とは、今も連絡を取り合っている。でも以前のように気軽に会えるわけではない。

少し寂しい気持ちになったが、不思議と暗い気分にはならなかった。

「あの頃は忙しかったな」

独り言のようにつぶやきながら、レシートをそっと処分する。

思い出まで捨てるわけではないと、なんとなく思えた。

午後になって雨が弱まり、近所のスーパーへ向かった。


野菜売り場で顔見知りの店員に声をかけられ、何気ない世間話をする。ほんの数分だったが、それだけで気持ちが少し外へ向いた。

帰宅すると、夫がもうすぐ帰る時間だった。

夕飯の支度をしながら窓を見ると、雲の切れ間から薄く光が差している。

変わり映えのしない一日だったかもしれない。

それでも、思い出を懐かしみ、誰かと言葉を交わし、いつもの夕飯を作る。

そんな日が続いていることも、悪くない気がした。

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