イラスト・矢野想子
昔、家族でよく観に行った映画が、「次郎長三国志」(マキノ雅弘監督、原作村上元三)。森繁の「森の石松」が出色で、幼心に、彼のオッチョコチョイでおどけの姿ばかりを覚えている。次郎長役の小堀明男や、大政役の河津清三郎を抑え、まるで主役の如き華があった。当時私は、川田晴久の唄い方を真似していたが、森繁を見て以来、唄い方を変えた。今でも、「船頭小唄」や「月の砂漠」を唄うと、哀しいかな森繁節になってしまう。 次に観たのは、ご存知「社長シリーズ」、好色で気が弱い恐妻家の社長、夜は銀座のクラブのママを口説き、はたまた料亭では芸者を口説くが、あわやのところで、会長夫人三好栄子や、妻の越路吹雪や久慈あさみが現われ、事はならぬのである。宴会場で見せる、森繁と三木のり平の芸の上手さに見とれていた。 別の森繁を観たのは、「夫婦善哉」(豊田四郎監督、原作織田作之助)である。船場の大店の出来損ないの息子柳吉役、妻がありながら、芸者蝶子(淡島千景)と駆け落ちし、勘当される。蝶子が居ないと何もできない甲斐性なし。 最後、雪の法善寺のシーンが良い。「頼りにしてまっせ、おばはん」「へぇ、おおきに」と蝶子、あんた一人くらい、あてが食べさせたるの風情。ああ、私も長じたら必ずや甲斐性なしになろうと、決意した映画である。 もーっと大化けしたのが、「猫と庄造と二人のをんな」(同、原作谷崎潤一郎)。追い出された先妻に山田五十鈴、追い出した姑に浪花千栄子、後妻の金持ちのアバズレ娘に香川京子という布陣。森繁はこの三人の女の確執の中で、猫だけをたよりにただ耐えている。美脚フェチの猫フェチ、このあたりは原作者谷崎の性癖そのままか・・。森繁の気弱で情けない庄造役は小説の庄造に命を吹きこんだ。 唄の名シーンは、「南の島に雪が降る」(久松静児監督、原作加東大介)、あすは玉砕の前日、森繁中隊長が子守の姿になり、「五木の子守唄」を兵の前でしみじみと唄う。すまんな、皆んな、俺に命をくれの思いが溢れており、何度観ても目が潤む。コメディから、スラプスティックから、シリアスまで、なんでもござれの大俳優。96歳で大往生された。

























