イラスト・矢野想子
34歳で18歳の高校生「六助」を演じた男。「青い山脈」(今井正監督)、三十路の年齢を微塵も感じさせず、いかにも初々しく溌剌とした高校生となっていた。池部がエッセイに、「青春時代が軍隊だったから、僕の青春はこのときから始まった」と書いている。 若き日に原節子から、「青もやし」とニックネームを付けられている。もともと、立教大学を出て、脚本部、映画製作側の人間になるつもりが、あまりの面差しの良さから俳優にさせられた。 好青年の役が多く続いたが、「現代人」(渋谷実監督)で義侠心のあるワルを演じ、青い山脈に別れを告げる。池部のターニング・ポイントの作品と云っていい。「早春」(小津安二郎監督)で、岸惠子と不倫した朝のクールさはすばらしい。女への未練もさらさらなければ、妻(淡島千景)への申し分けなさも一切ない。妻にバレてからの謝罪もなけりゃ、怯えもない。ただあるがまま、なされるがまま、淡々としている。このクールが池部の持ち味となり、甘さから大きく脱却した。 「雪国」(豊田四郎監督)、雪の越後湯沢での島村(池部)は、雪に覆われたアルプスの急峻な山のごとく、どこかそっけなくこれまた良い。東京へ来ないかと芸者駒子(岸惠子)を誘うが、彼女は「あなたとは一年に一度会う人」と諦める。池部の横顔は越後の雪よりもクールだった。 私が高校二年のとき、「乾いた花」(篠田正浩監督)を観た。青もやしは脱皮に脱皮を重ね、また大きく変化していた。ムショ帰りのやくざ、古いバシタ(原知佐子)に飽き、若いBB(ベベ)のような娘加賀まりこに惚れる。現代やくざの虚無的な生き様を、ニヒルな目を泳がせ、乾いた演技で見せた。翌年、東映俊藤浩滋プロデューサーに口説きに口説かれ、刺青を入れない条件で、「昭和残侠伝」シリーズ(主には、マキノ雅弘監督)に出演する。すべてではないが風間重吉役。高倉健が花田秀次郎。「お伴します」「御一緒します」と相合傘の死出の道、健さん自らが唄う唐獅子牡丹がバックに掛かる。ご存知「花・風」コンビ、団塊世代はこの二人に鼓舞されて70年安保を闘った。ニヒルで甘い、日本一の色男、10月8日、92歳で川を渡った。

























